猫を虐待する人間との対話

夏の夕刻、公園の隅に不規則に木々が並ぶこの場だけ時間が止まったようだった。目の前の男はゆっくりと身をかがめ、足元に転がる太い枝を拾い、何度か握り直すように手を動かしながら、「叩いた」 「猫」とつぶやいた。

半ズボンにスニーカーのあどけない姿から高校生を思わせたが、返ってきた言葉は「21」という数字。ところどころに長い沈黙を挟みながら、置き場のない視線をあちこちに向けつつ、その成人男性は続けて答える。あの自転車で来た。実家暮らし。働いてからきた。猫が嫌い。嫌いになったきっかけはない。公園にいるいろんな猫たちを叩いた。そのために公園にくる。何年もやっている。自分がやったことが犯罪だとは知っている。どういう犯罪の種類かは知らない。もうやらないとはいえない。即110番、0.1秒ほども迷わない通報だった。

できるかぎり丁寧に、できるかぎりロジカルに問いかけても、その男がなぜ自身に何も危害を加えない罪なき公園の捨て猫たちへ虐待行為を行うのか、その明確な理由はまったく分からない。ほかの質問にはぼそりと言葉を返すが、その問いにだけはほんの少し首を傾げるようにして固まってしまう。まるで理屈の道すじがぽっかり抜け落ちているようでもあったし、普段の生活の中で自分が無意識にやっている習慣を思い起こし、それらを行う理由を初めて考えてみているような、そんな様子でもあった。あるいは、近所のコンビニまで向かう途中、道ばたに小石が落ちていたから蹴りながら進んだ。まるでそんなふうに、一見無邪気であるようで、しかしながらまるっきり生きた思考が巡っていない狂気をそこには感じたのである。

人知れず長い間いじめられ、言葉では訴えることができなかった小さな命たちを想うとき、何ともいえぬやり切れなさと強い憤りが腹の底から終わりなく湧きおこる。

すっかり日が落ちかかっていた。その場を一歩も動かぬよう伝えた代わりに手渡していた虫除けスプレーを受け取ったころ、原付、パトカー、大型ワゴンの順に警察車両が到着した。事情聴取を終えても男はここで解放されることなく、虐待をするために乗ってきた自転車と共に自宅に運ばれるのだ。警察から一連の事情を説明された男の家族たちは、そこでいったいどのような反応を示すのだろう。もしも、その突然の知らせがそこまで大きく彼らを揺さぶらなかったとしたら。いいや、それ以前にこのような虐待行為を行いながら、のうのうと自宅まで帰ることができるこの国の現状も少しばかりどうかしているのではないか。帰り道、そんなことを考えているうちに、辺りはもう完全に真っ暗だった。